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特別掲載:集落営農の犠牲者
「どうする日本」での松岡農水大臣発言に対する本誌の見解(2007年2月3日)
2月2日NHK放送の「どうする日本」における松岡農林水産大臣の発言に対して、本誌編集部は以下のとおり批判するとともに農水大臣による発言内容の撤回と伊藤英喜氏及び国民に対する謝罪を求める。(「農業経営者」編集部)
認定農業者に集落営農への参加を強要する農相発言について
北上市北藤根地区の認定農業者・伊藤栄喜氏と集落営農組織の土地利用調整をめぐる軋轢について、松岡利勝農相は2月2日、出演したNHKの番組内で、「伊藤さんが集落営農に参加すれば、これで解決する」と発言した。
農水省発行の「品目横断的経営安定対策のポイント」(雪だるまパンフ)では、「集落営農の組織化に当たっては、これまで規模拡大を行ってきた認定農業者等の規模拡大努力にも配慮しつつ、地域の関係者間で十分に話し合いを行うことが重要です」とある。
しかし、北藤根地区の集落営農組織は伊藤氏との間で、十分な話し合いをへないまま、貸しはがしに及んでいるのであり、伊藤氏の組織への参加を強要するかのような農相発言は、認定農業者の立場を考慮していないばかりか、農水省の方針とも合致しない。
昨年11月17日、農水省経営政策課は文書で、認定農業者と集落営農組織の間における土地利用調整について「地域段階において、市町村や農地の利用調整を本来業務とする農業委員会等が行うものであり(中略)国が直接介入したり、国がいずれか一方の側に立って調整を図るようなことは(中略)適当ではない」との見解を示した。
この見解の是非はともかく、伊藤氏が集落営農に参加すれば、問題が解決すると明言した農相発言は、「国が直接介入し」、集落営農という「一方の側に立って調整を図るような」行為であり、この点でも農水省の方針と矛盾する。
また、この問題について農相は、「月刊農業経営者」(2006年11月号)で、「農水省としては、認定農家にしっかり頑張ってもらって、それでなおかつカバーできないところを集落営農で、という考え方ですからね。ですので、認定農家の方の経営が成り立たなくさせることは、意図してるところではない」と述べている。
NHKでの農相発言は、この11月時点の発言との整合性も欠いている。「認定農家にしっかり頑張ってもらう」「カバーできないところを集落営農で」という考え方が、今もなお「農水省の考え方」だとすれば、これにも反する。
そもそも北藤根地区の集落営農組織は、組織加入者の農地だけで、20ha以上という集落営農の要件を満たしており、農相の言う「カバーできないところを集落営農で」という地域にも当たらない。にもかかわらず、集落営農が強引に組織化され、これに伴って貸しはがしが起き、認定農業者の経営が脅かされているのであり、伊藤氏が参加すれば、解決するという農相発言は、誤った事実認識に基づいている。
NHKでの発言中、農相は、「伊藤さんが集落営農に参加すれば、これで解決する」と述べた後で、「ちょっと感情的にこじれていることもある。我々も努力してうまくいくようにしたい」とも続けた。
けれども、この問題は、国の政策に沿って集落営農が組織化されたことに端を発しているのであって、集落内の感情がこじれたとすれば、その責任の一端が国にあるのは言うまでもない。伊藤氏はすでに東北農政局、岩手県、北上市農業委員会にも相談しているが、いまだ問題の解決に至っておらず、農相が心から「我々も努力してうまくいくようにしたい」と考えているのであれば、国として早急に措置を講じるべきだ。
問題の原因を集落内の感情的対立であるかのように見なした農相の発言は、行政の責任を曖昧にし、あたかも伊藤氏だけが感情的になって、集落営農組織との間で軋轢を生じさせているかのような印象も視聴者に与えた。これは公共の電波を使った国民に対する情報操作に当たり、伊藤氏に対する人権侵害でもある。
農水省はこの問題で、これまでに2度、誤ったメッセージを北上に送っている。1度目は昨年11月、伊藤氏と集落営農組織に対し、「貸しはがしを正確に定義することは困難」と伝えた時、2度目は昨年12月、新版雪だるまパンフから「貸しはがし」という言葉を削除した時だった。その度に「組織側に理あり」「伊藤氏は妥協すべき」と誤解した反応が組織側や地元の一部で見られた。
今回の農相発言が、仮に「伊藤氏が感情的にならずに集落営農に参加すれば、問題は解決する」と地元に伝われば、農水省は誤ったメッセージを3度続けて送ったことになる。事態をいたずらに混乱させるような誤解を防ぐためにも、農相の発言撤回と謝罪を求める。